『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、地方の公共交通や物流のインフラは、近い将来に中国企業などの外資に牛耳られるかもしれないと指摘する。

(この記事は、2月7日発売の『週刊プレイボーイ8号』に掲載されたものです)

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前回の本コラムで、グリーンやDX(デジタルトランスフォーメーション)といった日本の成長戦略の重要な項目について、そのカギは地方が握っていると指摘した。

そのなかでグリーン戦略は、太陽光や風力発電といった再生可能エネルギーの地産地消、ガソリンスタンドやドライバー不足といった問題の解決につながるEVや自動運転の導入などによって地方を活性化させ、日本全体を成長させるというシナリオである。

ただ、このもくろみには大きな弱点がある。それは半導体、電機、EVなど、グリーン関連のビジネスを担う日本企業の衰退、出遅れが著しいことだ。

例えば90年代にシャープや京セラ、三菱電機など日本企業が圧倒的シェアを誇っていた太陽光パネルの世界トップ10は今やほぼ中国に独占され、日本勢はランキング外だ。風力発電ユニットも中国や欧州企業が強く、日本勢は生産そのものから撤退してしまった。

また、日本のお家芸とされたバッテリー生産も中韓勢に押されている。車載用電池のトップ10を見ると日本勢はパナソニックが3位(シェア12.5%)に踏みとどまっているが、それ以外は中国勢6社、韓国勢3社に独占されている。

世界の自動車メーカーの新しい主戦場になりつつあるEVマーケットでも中国と大きな差をつけられている。国内販売台数(2021年)において日本は前年比49%増の約2万台に対して、中国は前年比160%増の約290万台だ。

中国ではBYD社など先行する大手を追って、ウェイライ社、シャオペン社といった新興EVメーカーも急成長を遂げている。

そして、日本国内の自治体や企業では日本製EVの調達を見送り、中国などから購入する動きが強まっている。

特に目立つのがEVバスや小型EVトラックだ。自治体では岩手、福島、京都、三重、熊本、沖縄などの公共交通機関、企業では佐川急便(7200台)やSBSグループ(5000台以上)といった物流大手などがBYD社などの中国メーカーからEVを導入している。

購入の決め手になっているのは価格だ。例えば、日本製のEVバスは1台7000万円前後だが、中国BYD社のものは2000万円ほどで買える。

また、EVトラックも航続距離300kmの1t級車両が約380万円と、日本製のガソリン車とほぼ同じ価格だ。これならCO2を排出しない分、自治体や物流企業が中国製EVを導入しようと考えるのは当然だろう。

このような状況が続けば、地方の公共交通や物流のインフラは近い将来に中国企業などの外資に牛耳られるかもしれない。そして同じことは再エネやバッテリー関連のインフラ部門でも起こりうるだろう。

現在、日本国内では保守派を中心に経済安全保障の観点から、中国企業の国内進出を制限すべきという声が高まっている。しかし、今や地方では中国企業の存在感が日増しに強まっている。特に地方創生と日本の成長につながるグリーン戦略で、インフラ構築の主役に中国が躍り出るのは時間の問題といっていいだろう。

この現実を前にすれば、中国を敵視するだけの今の経済安全保障の議論は意味がない。日本のクリーン関連産業の立て直しこそが最優先課題である。

●古賀茂明(こが・しげあき) 
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中

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